黒髪の みだれもしらず うちふせば まづかきやりし 人ぞ恋しき
恋に思い乱れ、髪を乱したまま床にうちふす。その時に優しく髪をかき上げたあの人が恋しい。
いにしえの美女の代名詞「黒髪」、平安の女性たちが綴る和歌には黒髪に情念的な恋を
象徴しているものが多くあり、揺れ動く心と乱れる1本1本の髪が交差するかのようです。
当時の結婚は、男性が女性のもとに通い、心変わりして通わなくなっても女性は待たなければならない、そして女性の黒髪をかき上げるという行為ができる男性は恋人だけだったとか。
髪には儚い恋の情念が身についていたのでしょう。
長年、腰までの黒髪を保っている私ですが、平安時代の女性とは異なり「恋は自分で決める」という情動が私の黒髪には宿っているようです。
さてこの黒髪、毎日の洗髪はもちろん乾かすのもなかなか手がかかるものですが、
毛先までの手入れを施すのに長年試行錯誤してきました。
洗髪は香りを楽しんだらいい。乾かすのは、その時間を無になって1日をリセットするようにしたらいい。
万葉集の中に「君なくは、なぞ身(み)装(よそ)はむ、櫛笥(くしげ)なるの小櫛(をぐし)も、取らむとも思はず」とあり、あなた様がいらっしゃらないなら、どうして身を装ったりするでしょうか。櫛箱の黄楊(つげ)の小櫛も手に取ろうとは思いませんわ・・・と。
日本最古の万葉集にも、女性の美しさをなぞらう髪を思わせるものが記されてある事を知った私は、毛先の手入れをするためにと「つげ櫛」を購入したのです。
古代、魔除けとして考えられていた「櫛」ですが、つげの木が持つ特質と、櫛造りに打ち込む職人の技と心が、髪に語りかけるそれが「つげ櫛」なのだと。
つげ櫛の乾燥と反り防止には、椿油が最適だということも分かり、つげ櫛に染み込ませ、髪をとく。髪にも櫛にも艶がでてどちらも優美になる。
ボーシュブノワール(美しい黒髪)に魅せられた私は、現代っ子の感覚をもちながら古来の女性たちが残してくれたもので「美しさとは」を知ることとなったのです。
櫛に髪をとおす毎に平安時代の女性たちの純粋な心を受け継ぐのかもしれませんね。
ライター:千葉いずみ
ライフスタイルデザイナー
ファッションの世界で販売、企画、バイヤー、講師経験を経て2006年スタイリングサービスを提供するアトリエフォンティンを設立。2013年にはビューティコンシェルジュジャパンを立ち上げ代表を務める。人前で話すことよりも、書くことに専念し京都移住と共に新聞の食コラム、ビューティコラムを担当。アジアンビューティなアートを世界中に広める広報も務める。ライフワークでもある和事(生花、三味線、和裁)を嗜み、日常にとりいれる生活を楽しみ中。日本腸美人コンシェルジュ協会ビューティアドバイザー。
0コメント