はじめまして、揺町碧です。
このたびうつくしきにて、コラムを書かせていただくことになりました。
あたりまえが、実は、うつくしいこと。
うつくしいことをうつくしいと知ることで、毎日の暮らしがまるでファンタジーのような煌めきをもつことを表現できたらと思っています。
邂逅 kaikou
わたしは2017年がおわる6日前に現在の場所に越してきました。
この文章が公開されるころには2ヶ月とすこしが経っているのかしら。
今回は、自己紹介も兼ねて以前住んでいた街の話を。
ひとり暮らしをしたいという願望は小学生くらいからあったのだけど、それが実現したのは10年以上が経ってから。
内見をすることなくはじめて新居に足を運んだのは引っ越し当日。念願のマイホームは急な坂道をのぼった先にある、辺鄙な場所。
9.7畳、ワンルーム、丘の上。
会社に決められた街の、指定された物件だった。
スタバに行くにも、本屋に行くにも、映画館に行くにも、交通手段は電車一択。駅前のファーストフード店さえ21時には閉まってしまう。近所のレンタルショップでは、2014年に放送されていたドラマDVDが準新作として並んでいた。
なにもないわけではないけれど、なにがあるわけでもなく、買い出しのために何十分も歩かなければならないし、高層ビルもなければ人影だってほとんどない街。
けれど、すぎていく時間は穏やかで、そこにはまちがいなく、酸素があった。
春はちょっと、いや、かなり、花粉症の人間にはつらかったけれど、夏は草いきれが風とともに頬を撫ぜ、秋は金木犀がむねを満たす。冬はあまりの寒さにホホバオイルが凍ってしまったりと、いままでよりも季節を間近に感じられた。
掃除はきらい。
料理はできない。
洗濯機はまわせる。
これでも人生初のひとり暮らしはなんとかなると思っていたし、実際なんとかなった。なんたってこの世は平成。困ったときはインターネットがたすけてくれる。
毎朝炊飯器に予約タイマーをかけて出かけ、休みの前日に掃除洗濯をおわらせる。
自分の稼いだお金で生計を立てている、というのはとても不思議な感覚だった。身の回りのことをすべてひとりで行ううち、生きていることをリアルに実感した。
自分にやさしくするということはつまり、丁寧な暮らしをすること。
明日は今日という日の延長線にあって、すべては“点”ではなく“線”で成り立っているということ。
秋のおわり、コンビニでおでんを買った帰り道。通りかかったお店のまえには、かき氷ののれん。ちぐはぐな風景が季節の変わり目を告げていた。
その頃には引っ越しの目処がついていて、もう訪れることがないだろうこの街を、越してきたころを思い出し、夜な夜な街灯もまばらな道をあるいた。一年も住んでいなかった街に名残惜しささえ感じていたらしい。
一台、また一台と、わたしを追い越していく車のライトがきっと、都会でいうところの夜景なんだろう。そしてこれから、ヘッドライトに照らされるたび、この街のことを懐かしむのかもしれないな、と思った。
揺町碧 aoi yoimachi
すきなものは古めかしいもの、わけのわからない模様、ひえきった情緒、紙の本。趣味は読書と文章を書くこと。どうぞ、よろしくおねがいいたします。
0コメント